キャラクター&開発コンセプト

ボルボの旗艦セダン、ワゴン、クロスオーバー

左からV70XC(1997年)、初代XC70(2000年)、2代目XC70(2007年)、新型V90 クロスカントリー
海外では2016年1月に「S90」(デトロイト)、3月に「V90」(ジュネーブ)、9月に「V90クロスカントリー」(パリ)の順でデビュー、日本では2017年2月22日に3モデル同時に発売された新型90シリーズは、それぞれ従来のS80、V70、XC70の間接的な後継車であり、ボルボの最上級シリーズ。S90は「フラッグシップセダン」、V90は「プレミアム・エステート」、V90 クロスカントリーは「プレミアム・クロスオーバー」とされる。 日本では昨年(2016年)1月から「フラッグシップSUV」たる2代目XC90が発売されており、これら4モデルで新型90シリーズが構成されている。
 
左から新型S90、V90、V90クロスカントリー
新型90シリーズでは、将来の電動化や自動運転などへの対応を見据えて、自社開発の新世代プラットフォーム「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」や新世代パワートレーン「DRIVE-E(ドライブ・イー)」を採用。後者については、同社の旗艦となる高級車でありながら、ガソリン車、ハイブリッド車、ディーゼル車ともども、エンジン自体は排気量2Lの4気筒のみとするなど、極めて大胆な戦略をとっている。

「パイロットアシスト」などを標準装備

今回の新型S90/V90/V90クロスカントリーについては、車線維持走行をサポートする「パイロット・アシスト」の最新バージョンのほか、新機能として道路逸脱事故を回避支援する「ランオフロード・ミティゲーション」や「大型動物検知機能」を搭載するなど、最新の安全・運転支援技術を標準装備。ボルボらしく安全性にプライオリティを置いたモデルになっている。 また、「スウェディッシュ・ラグジュアリー」を体現したと謳う、いわゆる北欧デザインのエクステリア/インテリアや、9インチの縦型タッチパネルを核にした独自のインフォテイメント・システム「センサス」も見どころの一つだ。

過去最高を更新中の新生ボルボ

新型ボルボ XC60
2010年にフォードグループから離れ、吉利汽車の資本傘下に入ったボルボは目下、急速に業績を伸ばしており、2016年には世界販売で過去最高の53万台を達成。2016年からは90シリーズを皮切りに新世代モデルへの刷新を推し進めている。さらに海外では、すでに新世代60シリーズの先鋒となる新型XC60(日本でもまもなく発売)が、そして新世代40シリーズの先鋒となる新型XC40が発表されている。
 
新型ボルボ XC40
また、ボルボは2019年以降に発売する全ボルボ車に電気モーターを搭載すると発表済み。つまり2年後にはすべてのボルボ新型車が、ハイブリッド車もしくはプラグインハイブリッド車、あるいは電気自動車(EV)になる予定だ。 ■外部リンク ボルボカージャパン>S90/V90/V90 Cross Country 3車種同時発売(2017年2月22日) ボルボカージャパン>ボルボ90シリーズの一部仕様を変更(2017年7月14日) ■過去の新車試乗記 新車試乗記>ボルボ XC90 T6 AWD(2016年4月掲載)
 

価格帯&グレード展開

クロスカントリーは694万?819万円

ボルボ S90
90シリーズはS90、V90、V90クロスカントリー、XC90と4モデルで構成され、モデルに応じて「Momentum(モメンタム)」「Summum(サマム)」「R-Design」「Inscription」等の各グレードが設定されている。ちなみにモメンタムとは英語で「推進力」とか「動き」を意味し、サマムは「最高」を意味するラテン語、インスクリプションは「銘」「刻まれた文字」などの意。
 
ボルボ V90 T6 AWD R-Design
また、パワートレインに応じて「T5」「T6」「T8」といった各種グレードがある。ボルボにおいて数字が気筒数を意味したのは今や昔で、新世代90シリーズのエンジンはすべて2Lの4気筒。今のところ日本向け90シリーズにディーゼルエンジンはなく(欧州にはある)、すべてガソリン車で、ターボ車が「T5」(254ps、350Nm)、ターボ+スーパーチャージャー車が「T6」(320ps、400Nm)、T6に電気モーターや駆動用バッテリーを追加したプラグインハイブリッド車が「T8 Twin Engine」(320ps+87ps、400Nm+240Nm)となる。
 
ボルボ V90 クロスカントリー T6 AWD サマム
トランスミッションは全車、アイシンAW製の8速AT。駆動方式はS90とV90のエントリーグレードのみFFで、それ以外はすべて電子制御多板クラッチ式のAWD(全輪駆動=4輪駆動)になる。 ■S90 ※500台限定 T5 Momentum  644万円 T6 AWD R-Design  749万円 T6 AWD Inscription  842万円 ■V90 T5 Momentum  669万円 T6 AWD R-Design  779万円 T6 AWD Inscription  809万円 T8 Twin Engine AWD Inscription 929万円 ■V90 Cross Country T5 AWD Momentum  699万円 T5 AWD Summum  759万円 T6 AWD Momentum  769万円 T6 AWD Summum  829万円 ■XC90 T5 AWD Momentum  779万円円 T6 AWD R-Design  889万円 T6 AWD Inscription  919万円 T8 Twin Engine AWD Inscription 1049万円 T8 Twin Engine AWD Excellence 1299万円
 

パッケージング&スタイル

新世代のボルボデザインを採用

現行XC90から採用されている新世代のボルボデザインは、90シリーズ全体で展開されており、その特徴としては北欧神話に登場するトール神(雷神)のハンマーをモチーフにしたというT字型のLEDヘッドライト、新デザインのアイアンマーク、水平基調のベルトライン、FR車のように短いフロントオーバーハングとロングノーズ感などに表れている。全体的にはスポーティさよりも、存在感や力強さ、塊感が重視されている印象。

最低地上高を55mmアップ

今回試乗したV90クロスカントリーに関して言えば、原点は1997年発売のV70XCであり、のちにXC70に名称変更してから2世代続いたモデルの後継車ということになる。メカニズム的には、V90をベースに最低地上高を専用サスペンションで55mmアップしたもので、さらにホイールアーチカバーなどの専用エクステリアパーツを装着。ボディサイズは全長4940mm、全幅1905mm、全高1545mm、ホイールベース2940mmと堂々たるもので、V90と比べると全長は5mm長いだけだが、全幅は25mmワイドになり、全高は70mm高くなる。先回試乗したレンジローバー ヴェラールと比べると、高さ以外はそんなに変わらない。
 
意外なのは、先代XC70と比べた場合、全長は100mm、ホイールベースは125mm、全幅は15mm増えたのに、全高は60mmも低くなっていること。実に新型V90クロスカントリーの全高は、先代V70とまったく同じだ。
 
    全長(mm) 全幅(mm) 全高(mm) WB(mm) 最小回転
半径(m)
ジャガー Fペース (2016?) 4740 1935 1665 2875 5.6
スバル レガシィ アウトバック (BS型 2014?) 4815 1840 1605 2745 5.5
レンジローバー ヴェラール(2017?) 4820 1930 1685 2875 ?
ボルボ V70 (2007?2017) 4825 1890 1545 2815 5.5
ポルシェ カイエン(2010?) 4855 1940?1955 1700?1710 2895 ?
レクサス RX (2015?) 4890 1895 1710 2790 5.9
ボルボ V90 クロスカントリー(2017?) 4940 1905 1545 2940 5.8
ボルボ XC90 (2016?) 4950 1960 1760?1775 2985 5.9?6.0
 

インテリア&ラゲッジスペース

スイッチ類は最小限。9インチ縦型タッチパネルに集約

インパネの骨格やパーツ類も90シリーズでほぼ共通化されている。9インチの縦型タッチスクリーン式センターディスプレイ、12.3インチのドライバー・ディスプレイ(フル液晶メーター)、ヘッドアップ・ディスプレイ、サイコロ型のエンジンスタート&ストップボタン、メーターの真ん中部分に地図表示も可能なフル液晶メーターなどがそうだ。ただしデザインや使い勝手は従来のXC90より、さらにリファインされている。
 
これらの狙いはスイッチ類を極力減らし、ドライバーの視線移動量は最小限にし、直観的に操作できるようにする、というもの。ボルボではこうしたインフォテイメントシステムを「SENSUS(センサス)」と呼んでいる。 まぁ、こういった考え方は先回のレンジローバー ヴェラール同様だが、ボルボの場合も正直なところ、スイッチを減らしすぎて分かりにくいところはある。ただ、iPhoneのようなインターフェイスがいいという意味では、(慣れさえすれば)いいのかもしれない。

Apple CarPlayやAndroid Autoにも対応

センサスには当然ながら音声認識機能も採用されており、ナビゲーションの目的地設定、エアコンの温度調整、オーディオなどを音声操作できる。ただ、実際には適切なコマンドを言う必要があったり、言っても正確に聞き取ってくれなかったりと、思い通りにはいかないが、Apple CarPlayとGoogleのAndroid Autoにも対応しているため、SiriやGoogleの音声操作に慣れている人なら、それなりに使えるかも。
 
なお、毎回書いていることだが、Apple CarPlayとAndroid Autoを利用するには、スマホと車両をUSBケーブルで接続する必要がある。また、スマホ側のナビゲーションを使う場合は、iPhoneならAppleの標準マップに、AndroidならGoogleマップになる。

バウワース&ウィルキンス社製の高級オーディオシステムも用意

ところでボルボの上級オーディオと言えば、デンマークのディナウディオ(Dynaudio)という印象があったが、試乗車には英国の高級スピーカーメーカー、Bowers&Wilkins(バウワース & ウィルキンス)製のプレミアムサウンド・オーディオシステムが装着されていた(Summumグレードでは45万円のオプション)。スペックは総出力1400W、12チャンネルデジタルアンプ、サブウーファー付き19スピーカーというもので、サウンド設定にはスウェーデンのイェーテボリ・コンサートホールのベストシートでの音響を再現した「コンサートホールモード」なんてのもある。サウンドは北欧車らしく?ナチュラル。オーディオ好きなら視聴してみるといいかも。
 
あと、オシャレだなぁと思ったのはウッドやレザーに包まれたリモートコントロールキー。試乗車はベージュの「アンバーレザー」仕上げだったが、販売店オプション(アクセサリー)でウォールナットやバーチウッド、ホワイトレザーやチャコールレザー等にも変更できる。

サイズを活かしたゆったりした室内

試乗した上級グレード「サマム」は、穴あき加工が施された最上級レザーを使うパーフォレーテッド・ファインナッパレザーシートを標準装備。シートヒーターはもちろん、座面の前後長を電動調整する機能や、冷気を表皮から吹き出すベンチレーション機能、そしてモミ玉が腰から背中までグリグリしてくれるマッサージ機能も備える、なかなか豪華なシートだ。 なお、新世代SPAプラットフォームのおかげだろう、運転席足元が広々しているのもいいところ。ペダルレイアウトも自然で、アクセルペダルはタッチのいいオルガン式だ。また、90シリーズ全車には、前面衝突時にブレーキペダルの動きを規制してるパーツを火薬点火で瞬時に取り払って右足の負傷リスクを低減する「衝突時ブレーキペダルリリース機能」が備わっている。やれることは全てやるという安全思想がすさまじい。
 
キャビンの広さは全長5メートル級の大型FRセダンと比べても、余裕たっぷり。室内高は低めだが、ホイールベースが2940mmもあるせいか、後席のフットルームはかなりゆったりしている。これなら大統領でも乗せない限り、ロングホイールベース版は要らないだろう。嬉しいことに、リアサイドウインドウには収納式のサンブラインドも備わる。
 
試乗車にはチルトアップ機構付の電動パノラマ・ガラス・サンルーフ(20万6000円)も装着されていた。後席からの開放感はなかなかだが、電動開閉式のサンシェードは完全遮光しないメッシュタイプで、直射日光が後頭部にあたってちょっと暑かった。

使い勝手や作りの良さで差をつける

リアウインドウの傾斜が増えたせいか、荷室容量はV70よりわずかに減ったようだが、ステーションワゴンでは最大クラスゆえ、トランク容量は560Lから最大1526Lを誇る。
 
とはいえ、容量で言えば今やXC90などの大型SUVには敵わないため、こうした“高級”ワゴンでは容量を競うのではなく、スタイリングや作りの良さ、使い勝手で差をつける、ということだろう。
 
例えば、フロアの一部がバネで跳ね上がり、買い物袋などを固定できるボルボお得意のグロサリーバッグ・ホルダー、フラットな側壁などによるスクエアな空間、リアゲートと共に持ち上がるトノカバー、フロア全体がダンパーストラットで持ち上がってアクセスできる床下収納、電動リアゲート、そして事故の際などに荷物がキャビン内に飛び込むのを防ぐパーティションネットなどなど、いかにもワゴンの先駆者らしいアイテムが満載されている。
 
少し意外だったのは、リアシートの背もたれを流行りの3分割ではなく、2分割としたことだったが、このあたりは万能性重視のXC90は3分割で(XC90には2人掛けのサードシートも備わる)、後席重視のV70は2分割で、というキャラクタライズの一つか。
 
床下収納のボックスは取り外すことが可能で、その下にはパンク修理キットが搭載されている。なお、販売店オプションでスペアタイヤに変更することも可能だ。7万6248円もするが。
 

基本性能&ドライブフィール

高級車でも2Lの4気筒ターボ

試乗したのは2LターボのT5エンジンを搭載し、快適装備が充実した上級グレード「T5 AWD サマム」。車両本体価格は759万円だが、試乗車にはさらにオプションのバウワース&ウイルキンス社製オーディオシステムやガラス・サンルーフが付いて832万9000円。ただし、オプションの電子制御式リア・エアサスペンション+ドライビングモード選択式 FOUR-C アクティブパフォーマンスシャシーは非装着だ。 エンジン自体は前述のように2Lの4気筒ガソリンターボ。とはいえ、このT5でも最高出力は254ps、最大トルクは350Nm (35.7kgm)と、自然吸気ガソリンエンジンなら3.5LのV6に相当するパワーを発揮する。車重は1850kg(ガラスルーフ装着車は1870kg)なので、パワーウエイトレシオは約7.3kg/psとまずまずだ。
 
XC90同様に、センターコンソールにあるサイコロ型のスタート&ストップノブを右にひねると、直4ターボにボッと火が入る。4気筒なのでノイズや振動はそれなりにあるが、特に気にはならない。静粛性は高いと思う。 実際のところ動力性能については、ほとんど不満はない。ほとんど、と言うのは、やはりターボチャージャーの過給圧が上がらない発進直後(1500rpm以下)だけ、ほんの一瞬、トルクの弱さを感じるからだが、先を急ぐのでなければ気にならないレベル。いったん動き出せば、たった2Lとは思えないトルク感があり、小さな排気量で大きなものを造作なく動かすところに知性のようなものも感じてしまう。 ただ、このクラスではV8などの大排気量エンジンのトルク感に慣れ親しんでいるユーザーも多いため、そういう人には低い回転域から分厚いトルクが立ち上がり、320psと400Nmを発揮するT6の方が好印象だろう。
 
そして、ボルボがトヨタよりも早く大々的な採用を始めたアイシンAW製8速ATの貢献度もそうとうに大きい。ステップ比の小さい各ギアがターボエンジンの美味しいところだけつまんで、この大型ボディを時にゆったり、時に俊敏に走らせる。また、エンジン横置ゆえか、アイドリングストップからの再始動においてショックが小さいのも好感が持てるところだ。 一般道にしろ高速道路にしろ、ゆったり流していれば、エンジン回転は最大トルクを発揮する1500rpm以上をキープする仕立て。8速トップには90km/h、1500rpmで入り、100km/h巡行は約1700rpm、120km/h巡行は2000rpmという感じだ。

普段はゆったり。山道では俊敏に

試乗車はエアサス非装着車だったが、剛性感のあるボディ、フロア、サスペンションなどによる重厚でゆったりした乗り心地、直進安定性の高さなどは、期待に背かないものだと思う。サスペンション形式はXC90と同じで、フロントはダブルウィッシュボーンのコイルスプリング、リアはマルチリンクで、標準仕様は複合樹脂製の横置リーフスプリングになる。そのせいか路面によってはコツコツ、ゴツゴツと少し硬めに感じられることもある。 なので、より快適な走りを求めるなら、オプションの電子制御式リア・エアサスペンション+ドライビングモード選択式 FOUR-C アクティブパフォーマンスシャシー(20万円)を装着するのがよさそうだ。これがあれば、乗車人数や積載量が変化しても、車高や車体姿勢を一定に保つことができる。 また、254psをフルに発揮しても危うさのない操縦安定性には、クロスカントリーに全車標準の電子制御AWDの貢献も大きいはず。ワインディングを飛ばして楽しむクルマではないが、意外に動きはキビキビしており、それでいてヒヤッとするような挙動が出ないという意味で、ハンドリングは悪くないと思った。 あえて気になった点を挙げれば、そういう状況だと電動パワステのフィーリングが少々軽すぎることか。そのあたりの不満は、試乗車にはなかった「FOUR-C アクティブパフォーマンスシャシー」装着車だと解消されるのかもしれない。

レベル2の自動運転を行う「パイロット・アシスト」を標準装備

「2020年までに、新しいボルボ車での交通事故による死亡者や重傷者をゼロにする」という目標(VISION 2020)を掲げるボルボ。当然ながら新型90シリーズにも最新の安全・運転支援技術「インテリセーフ(IntelliSafe)」が標準装備されている。 中でも注目の装備は、レベル2の自動運転を行うとする運転支援機能「パイロット・アシスト」だろう。これは一般的なACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)に、車線の中央を走るようにステアリング操舵を行う機能を追加したものだ。今回採用された最新のパイロット・アシスト(パイロット・アシスト2と呼ぶ場合もあるようだ)は、前走車なしでも車線維持走行が可能となり、作動域が従来の50km/hまでから、140km/hまでに拡大されている。 なお、前方の監視と車線検知は、フロント・ウィンドウ上部に設置されたミリ波レーダーと高解像度カメラの一体型ユニット「ASDM(アクティブ・セーフティ・ドメイン・マスター)」で行う。ミリ波レーダーもずいぶんコンパクトになったものだ。
 
パイロット・アシストをオンにする方法は、まずステアリングスイッチで全車速対応ACCをオンにし、さらに「パイロット・アシスト」を選択するだけ。メーター内に緑色のステアリングのマークが点灯すれば、作動オンということになる。 そして高速道路で使用した印象は、さすがレベル2の自動運転を謳うだけのことはある、というもの。ブレーキ等を踏まない限り、かなり曲率の高いコーナーでも作動が切れることはなく、操舵トルクも以前乗ったテスラのモデルXを思わせるくらい強力で、運転中のストレスはかなり軽減される。 とはいえ、もちろんこれは完全な自動運転ではなく、あくまでもドライバーの常時監視が必要な運転支援に過ぎない。車線数が変化するところや分岐では、あらぬ方向にステアリングを切っていくことがたまにあるし、前方への割り込みや前方が渋滞している時の減速開始もドライバーが期待するタイミングより遅れがちだ。業界用語?で「レベル2の自動運転」などと言うのではなく、現状は「高度な運転支援」と言うべきだろう。 また、パイロット・アシストはあくまでも高速道路(自動車専用道路)での使用を想定したものであるせいか、一般道ではいったんセットしても、すぐにオフになりがちだった。車線からの逸脱をステアリング操舵支援で防ぐLKA(レーン・キーピング・エイド)は一般道やACC非使用時でも作動するため、その恩恵を体感しやすいが、パイロット・アシストの真価を体験するなら、高速道路で試す必要がある。

世界初「大型動物検知機能」を採用

新型90シリーズには、世界初という「大型動物検知機能」も採用されている。従来の歩行者およびサイクリスト検知機能に加えて、前方の大型動物を検知してドライバーに警告、さらに最大制動力の約30%(約0.3G)で自動ブレーキを作動させるというものだ。特に70km/h以上の高速走行時に効果が高く、夜間でもヘッドライトで対象が照らされている場合なら検知するという。スウェーデンでは鹿などの大型動物との衝突が重傷事故の要因となっているそうだが、日本でも北海道や東北あたりでは身近な話だろう。 なお、この日本でも10月に発売された新型XC60には、車両、歩行者、サイクリスト、大型動物に対して作動する自動ブレーキ機能に加えて、さらにステアリング操舵でも衝突回避を行う「ステアリング・サポート機能」が追加されている。 そして90シリーズにおいて、もう一つの世界初が「ランオフロード・ミティゲーション(道路逸脱回避支援機能)」。これは車線逸脱時に、車体の激しい揺れや衝撃に備えてシートベルトの締め上げ等を行う従来の「ランオフロード・プロテクション(道路逸脱事故時 保護機能)」に加えて、道路からの逸脱を防ぐためにステアリングを自動操舵して道路上に戻そうとしたり、自動ブレーキを作動させたりするもの。これは45?140km/hで作動するという。
 
「オンカミング・レーン・ミティゲーション(対向車線衝突回避支援機能)」のイメージ
また、試乗車(2017年4月登録)には未装備だったはずだが、今年7月に実施された仕様変更で追加された新機能が「オンカミング・レーン・ミティゲーション(対向車線衝突回避支援機能)」だ。これは、対向車が接近している時、自車の意図的でははない対向車線への逸脱を検知すると、ステアリング自動操舵で走行車線に戻すよう支援するもの。これは60?140km/h走行時に作動する。
 
「ステアリングアシスト付BLIS(後車衝突回避支援機能付)」のイメージ
そしてもう一つ、やはり7月に新採用されたのが「ステアリングアシスト付BLIS(後車衝突回避支援機能付)」。走行中、斜め後方から接近してくる車両をドアミラー内蔵のインジケーターで警告するシステム(ブラインドスポットモニター、ボルボではBLIS:ブラインドスポット・インフォメーションシステムと呼ぶ)はすでに珍しくないが、この新機能はドライバーが接近に気付かず車線変更して相手車両と衝突しそうだと判断された場合、ステアリングの自動操舵で元の車線内に戻そうとするもの。命にかかわる重大事故を防ぐためなら、ドライバーの意志を越えて操作を行うというもので、滅多にない状況下ながら、これはもう自動運転の領域に踏み込んでいると言える。これも60?140km/h走行時に作動するという。

試乗燃費は8.1?14.0km/L。JC08モード燃費は13.1km/L

今回は約350kmを試乗。参考ながら試乗燃費は主に「コンフォート」モードを使用して、一般道と高速道路を走った区間(約110km)が8.1km/L。また、一般道を普通に走った区間(約30km×2回)が市街地で8.7km/L、郊外で10.8km/L。高速道路を80?100km/hで巡行した区間(約70kmを2回)が工事中で片側一車線の東名高速で12.3km/L、夜間の空いた状態で14.0km/Lだった。 高速道路に関しては、「エコ」モード、例えば車速65km/h以上でアクセルオフすると、エンジンとトランスミッションを切り離すコースティング機能が作動し、エンジンブレーキによる車速低下を防ぐらしい……を使えば、もうちょっと燃費を稼げたかもしれない。 感覚的には普段乗りで8km/L台といったところだが、ACCやパイロットアシストを使って高速道路を一定のペースで走れば10km/L台は確実、という印象だった。 JC08モード燃費は、試乗したT5が12.8?13.1km/L、スーパーチャージャー付のT6が11.5km/L。なお、普通のV90は同クロスカントリーより1割ほど良く、T5(FFのみ)が14.0?14.4km/L、T6が12.7km/L。車重と空気抵抗の差だろうか。 燃料タンク容量は、クロスカントリーに限れば全車60Lで、指定燃料はもちろんハイオク。ちなみにフューエルリッドの裏側にはなぜか使用燃料のコーションラベルがなく、「まさかディーゼルってことはないだろうな」と、しばし考えてしまった。

ここがイイ

ボルボらしい乗り味。パイロット・アシスト。豪華なシートなど

ボルボらしい鷹揚で落ち着いた乗り味。ボディサイズや車重、“SUV”であることを忘れさせる走り。独自のデザインや工夫が施されたインフォテイメントシステム。そして車線中央維持などの操舵支援機能が強力なため、高速道路に限れば、いわゆるレベル2の自動運転を疑似体験できること。 シートベルトの警告音が独特の優しい音。このあたり、安全意識が高くてシートベルトを装着するのが当然と考えるユーザーが多いボルボ車だからこそか。 上級グレードの、もみ玉が腰から背中までグリグリしてくれるマッサージ機能やベンチレーション機能のついたレザーシートはぜひ欲しいところ。ついでにオプションで45万円もするオーディオシステムもどうせなら欲しいところ(標準仕様でも音は十分にいいかもしれないが)。

ここがダメ

慣れを要するセンサス。クロスカントリーに標準のウッドパネル

「センサス」というインターフェイスを採用したインフォテイメントシステムは、ある程度の学習を必要とするもの。また、ナビゲーションも、目的地設定がスムーズにできなかったり(音声操作でスムーズに設定できる場合もある)、案内中の表示も自車位置を示すマーカーが小さすぎて見えないとか、分岐の拡大画面が出ない時があるとか、ちょっと不親切な印象。ディスプレイが縦型のせいで、地図部分の表示もやや狭い。
 
こちらはS90&V90の内装の一例(本国仕様)
ボルボの内装デザインと言えば、この前まではセンターコンソールを板状にしたフローティング・センタースタックだったが、この新型90シリーズからは割と常識的なデザインになってしまったこと。また、試乗車の化粧パネルはブラックウォールナット・ウッドという黒の木目だったが(クロスカントリーの場合はこれが標準装備)、試乗中は樹脂パネルだと思っていたくらい、これがぜんぜんウッドに見えない。もっと北欧デザインっぽい明るいウッドパネル(写真のような)をクロスカントリーでも標準装備にして欲しいところ。いちおうダッシュボードとドアパネルには、販売店オプションという形でウッド素材やメタル素材等の着せ替えパネルが用意されているが(ダッシュボードが約3万5000円、ドアパネルが約8万2000円)、センターコンソール部分は交換不可のようだ。

総合評価

伝統的なイメージは健在

このクルマの場合、毎度毎度で申し訳ないが、モーターデイズ的には大型のステーションワゴンであることをまずは評価したい。試乗車はクロスカントリーゆえ、車高がやや高いSUV的な外観で、スタイリング的には車高の低いV90の方が整っていると思う。強い個性には欠けるものの、昔のボルボを彷彿させるスタイリングで広く好感が持たれそうだ。年配の人には懐かしい240シリーズ、あるいは700シリーズのようなシンプルさは、質実剛健なボルボのイメージで、昔からのファンという人にはうれしいカタチだろう。 アナクロと呼ばれようとも、ステーションワゴンという形状は素晴らしいと思う。ステーションワゴンは荷室フロアが低いため荷物を載せやすい、というのが昔からの謳い文句で、その点では多くのSUVより実用的だろう。また、乗り心地や運動性能もSUVよりステーションワゴンの方がいい、とかつては言えたものだが、今となってはそれはもはや関係ないか。見渡せば車高や重心の高さなど関係なく、素晴らしい運動性能を持つSUVばかりだ。そんな中では試乗車のような、若干車高が高い程度のクロスオーバー仕様で、運動性能になんら問題があろうはずはない。このあたりはステーションワゴンでなければならないという理由にはならないが、それよりセダン並みの乗り降りのしやすさはステーションワゴンならでは。特にお年寄りなどはSUVの高さが苦痛だったりするから、ワゴンの優位性は今もあると思う。
 
一方で、このサイズのワゴンであれば、やはりボルボにも従来あった6気筒くらいのエンジンでゆったり乗りたいと思ってしまうのだが、いよいよ高級車でも4気筒という時代となってしまった。動力性能に不満はないが、やはり大排気量・多気筒の「あの感じ」がこういう大きなワゴンにはやはりふさわしいのでは、と思ってしまったのは事実。とはいえ、安全なボルボという伝統が生き続け、安全装備が最新となっているのはやはり最もアピールするところだ。無骨なスタイリングと安全性は、メルセデス・ベンツやBMWとは一味違う知的なブランドイメージとなり、特に所得の余裕がある熟年層には気になるクルマと言える。ボルボと言えば、昔はお医者さんの御用達だったが、大型の90なら今後もそのイメージは続きそうだ。 ちなみにインパネの造形も外観同様にスクエアで、ここも昔に戻ったかのように見える。ボルボらしく手袋でも操作できるという液晶画面の操作系は目新しいが、別にこれならアナログスイッチが並んでいた方がいいのでは、とも思えた。このあたりは一足飛びに進化してくれないのがもどかしい。

安全装備は日進月歩

さて、このモデルではかなりステアリング制御が効いて、自動運転っぽい動きをするのが確認できた。とはいえ、これからの長い自動運転への道のりの中では、着実な一歩というところか。先日、国交省が「高速道路などを自動走行する際、ドライバーがハンドルから65秒以上手を離すと手動運転に切り替える仕組みを搭載すること」を義務付けた。手放し運転こそが自動運転なのだが、現在はまだ過渡期の初期。致し方ない。ちなみにこのクルマでは、ACCとパイロットアシストに頼って長距離を走ると、注意力が散漫になると感じた。人力だけで走って居眠りしてしまうのと、どちらが危ないかというあたりは難しいところだが、過渡期の現在の装置への過信や、人の誤操作による事故はありえるゆえ、自動運転の未来のためには、そういったことがエキセントリックに社会問題化しないことを願いたい。 昨今の安全装備を見ると、まさに日進月歩の勢いで、どんどん機能が向上していく。それは楽しみではあるが、クルマはスマホと違ってホイホイ買い換えられないのが悩ましいところ。先日登場した新型XC60では、早くも新型90シリーズにない安全機能(衝突回避をサポートする「ステアリング・サポート」など)が追加されている。かつてボルボは10年乗っても古びない、などと言われたものだが、こういったことで今の新車は10年乗ることなど、ちょっと考えられない。安全性能は日々進化。そこはボルボ自身、悩ましいところだろう。

日本向けはひとまず本社工場製だが

そしてもう一つ、セダンのS90については、初期生産のみスウェーデン本社工場で行うが、以降は欧州向けも含めてS90だけは中国生産に移管するという。今回日本に導入されたS90は本国での初期生産分で、限定500台だ。 かつてアメリカ製のトヨタなどでは日本製との品質の差、というか本国クオリティとの差が気になったものだが、中国製の出来は昨今どうなのだろう。もはやスマホなどは中国製の方がいいし、家電でもそろそろ気にならなくなってきている。ただ、家電では今もまだ中国製は一つ格下ではある。では自動車の場合は。かつて韓国製ですらが拒否された日本市場において、ボルボブランドとはいえ中国製が受け入れられるだろうか。iPhoneのように生産国などどうでもいい、そんな時代がくるのだろうか。今のところは難しいというのが今回の判断だろう。 ただ、流れとしてはクルマも少しずつ、スマホや家電のように中国メーカーのブランドでも通用するようになっていくのだろう。クルマだけは難しいと考えることはもはやできない。100円ショップに中国製の商品が溢れているように、simフリースマホの大半が中国製であるように、足としてのクルマなら中国製で十分という時代は早晩、やって来るような気がする。
 
2019年に発売予定のハイブリッド車、ボルボ ポールスター1。最高出力は600psとのこと
また、ボルボは2017年10月17日、同社の高性能車ブランド「ポールスター」を新たにエレクトリックパフォーマンスブランド、つまり電動・高性能車の新ブランドにすると発表した。2009年半ばに発売予定のポールスター1はプラグインハイブリッド車だが、その後に続くポールスター2、ポールスター3はピュアEVのようだ。 これはテスラのようなリース販売が主力となるようなので、想像するに今後は中国製が主力となるであろうEVを、今からブランドとして育てようということではないか。ボルボの安全技術が注ぎ込まれたEVなら、日本でも抵抗は少ないのでは。そんな狙いもあるのかもしれない。ぶつからない自動運転EVの時代が来た時、日本の自動車メーカーは今の家電メーカーのようになってしまうのか。また、出てきた日産の検査不正問題、安倍首相も勤めていたことがあるという神戸製鋼の問題を知るにつけ、がんばれニッポンとチャチャチャするのがふと虚しい気分になる昨今だ。